近所のこじゃれた、だけどとても居心地も泉質もいい温泉に行った。
とても気持ちのよい午後を過ごしたのだけど、とろとろとしたお湯につかりながら、ふと思い出す。
那須にある、いや、あった老松温泉。
昔話に、醜いお婆さんだと思ったら、その素顔は光り輝く観音様だったという話があるが、老松温泉はまさにそれだ。
荒れ果てた廃墟の建物を横目に歩くと、一層崩れたぼろぼろの建物が目指す温泉だった。
入浴料500円を払い、朽ちかけた木の階段をきしませながら降りる。埃と温泉の堆積物にドキドキしながら湯屋の扉を開けると、気持ちの良い朝の光に照らされた白い温泉が現れた。
お湯は那須湯本の温泉である硫黄系の白濁湯だが、肌感覚は全く異なる。これほど柔らかいお湯にはなかなかお目にかかれない。飲泉もできるという湯を舐めてみると、意外と味がしない。
とろとろにまろやかな温泉は今はもうない。
いくつもある滅びゆく運命の温泉のひとつ。
大切なものって、意外に簡単になくなってしまうものなのかもしれない。